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2006年11月19日 オープン例会講義
 『臨床での軽擦・取穴・自然体』
滋賀漢方鍼医会  二木 清文先生

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 本当は森本先生に一時間半全てを喋ってもらいたかったのですけど、それで滋賀からは何も出てこないでは何のための滋賀で開催したオープン例会かが分からなくなってしまいますから、一時間喋って頂きましたところでのバトンタッチです。苦肉の策で出してきた題名ではないのですけど、先程も少し話されていましたが二年後の第十五回夏季研が滋賀の担当になります。その準備というか、布石になるテーマです。


 それで予想外に時間ができたので話を別のところから始めますけど、今月の初めに伝統鍼灸学会に大分まで行ってきました。その時に見た印象はいくつかあるのですけど、まずは「あはきワールド」で松田博公さんの記事をご覧になっている方がほとんどだと思いますけど、何故日本鍼灸といえないのかです。「あはきワールド」の他の記事でも出ていますが、世界の鍼はTCMつまり中国の鍼が中心です。けれど中医学の中国の鍼を「基準線がないから中心に考えましょう」というだけの話であって、ヨーロッパやアメリカ・オーストラリアなどがそれ自体をやっているわけではない。むしろ日本の鍼管を用いてマイルドな刺激を好む傾向があったりで、フランスの方では鍼管で刺鍼することを好んでいるらしいですね。あるいはオーストラリアならオーストラリアの、アメリカならアメリカの風土に合わせたものが、言い方を変えれば翻訳されたものがしっかり行われています。中国の人たちが世界会議の主要な幹部を独占しているわけですけど、それじゃその人たちのことばかりを聞いているかといえばあまり聞いておらず、世界鍼灸というものはまだ存在していないのだということです。これに対して日本の鍼灸というものは、中国・韓国を経て伝えられてきました。その当時の日本の先輩たちは、日本の風土に根ざしたものを作り上げてきました。ここ最近でいえば六十年前に柳谷素霊が「古典に帰れ」という大号令を掛けて、竹山・井上・岡部の三先生を中心に経絡治療というものを日本の風土に合わせて、そしてその時代に合わせたものを作る力があったのですけど、それが今の日本では「中医学が入ってきたから」と中国のものをそのまま行ったり、経絡治療といっても簡単な方向へ簡単な方向へと別に難しいことばかりをやる必要はないと思いますけど簡単なことばかりを求める風潮にありますし、それから伝統鍼灸学会の中で私もそのような質問を受けたのですけど「このような記事があったのですがここのツボへ鍼を打てば効きますか?」のような、、「ここへ鍼を打てば」「このツボを使えば」のような話ばかりなのです。それは鍼灸術なのか?ということです。


 そのような理由から日本鍼灸を作っていく必要があるとのことです。そのためには医学部と鍼灸学科ではやっている科目が恐ろしく違いますし、実習時間も恐ろしく違いますからそこを是正して行かねばならないだろうとの提案でした。けれど昔は明治鍼灸大学だけだったものが、関西鍼灸大学や森ノ宮も大学になりますし、鈴鹿や早稲田や筑波は技術短大が大学になるなど大学は増えています。ただ単純に授業時間数だけが増えればいいのかという話ではないでしょうし、それからここから本論へ入っていきますが、森本先生には漢方の中核となる学術を話して頂いた訳なのですけど、鍼灸を施す上での基本技術ということ、基本がなければ上を目指そうがどこを目指そうがどうにもならないのです。ここをかなり飛ばしてしまっての学生育成がされています。


 学校としては国家試験を突破さえしてくれればいい話で、学生も理想に燃えて入学はしてくるのでしょうけどそのうちに段々と学生生活に慣れてボーっとするようになり国家試験さえ通ればいいだろうと考えるようになり、就職したならまた教えてもらおうと常に教えてもらうことしか考えておらず、自分からはどうやって開拓していくことを考えていないので基本技術というものがおろそかになっていますし、もっと怖いことは基本技術が出来ていないことに気付いていないことなのです。


 そのようなことも含めて午後の実技では腹診で病理産物を観察していく訳なのですけど、「これが解消した時にはどうなるのか」「正しい証を決定するためには軽擦をする」ために資料の中にも書かれている訳なのですけど、それを実践するために正しい取穴をすることです。正しい取穴が出来たとしても、身体に力が入っていたのでは刺鍼に対して(このオープン例会に参加されている方はまずてい鍼でしょうから鍼を施す時と表現した方がいいでしょうか)不自然体になっていては力が入っていい鍼にはなりませんから、簡単に言えば衛気の手法をやっているつもりでも力が入ってしまえば営気の手法となってしまいますから、基本の部分をピックアップさせてもらいました。


 四診法と病理考察から選経・選穴へと絞り込んで、証決定し実際の治療となるわけだが、患者の経絡へ触れる軽擦・取穴は触診の一部とも解釈は出来るが術者の技術力に直結することなので、基本技術として修練されたい。また刺鍼時だけでなく軽擦・取穴時にも自然体が重要であることから、この基本技術についても充分に修練されたい。

1.軽擦法について
 経絡は軽擦によって活性化することが出来、活性化していれば経穴が浮き上がってくるので取穴も容易となる。経絡が活性化していれば、手法による効果も増大する。粗雑にならないことだけを注意すればすぐ活用できる技術なので、毎回自己診断しながら臨床に生かして頂きたい。


A.必ず流注上を軽擦する
 流注をしっかり頭へ入れておくことは、鍼灸を施すための大前提であるからここでは取り上げない。それなのに軽擦が粗雑になるのは何故かといえば、流注上を正確に追跡していないからである。原因の大半は肘から手を引くような動作にしないためで、手首を中心に動かしているケースが多いと思われる。これでは極端には円弧を描いた手の引き方になってしまい、経絡を横断しては逆に不活性化させてしまうだろう。必ず肘から動作を起こすことである。
 それから丁寧に感じようとするあまりに往復で軽擦しているケースも見受けられるが、これも間違いである。流注に従って撫でた帰り道は、空中で押し手を戻すことである。いわゆる「尺取り虫」になることも厳禁である。


 まず軽擦法です。「軽擦」ですから、当たり前ですけど軽い手で行ってください(笑)。私が軽擦というものに注目し始めたのは、まだ東洋はり医学会だった時代です。学生時代に刺激治療をしていた時には、前柔捻をして・押し手を強く構えて・皮膚面を張ってそこへ鍼管を立ててトントンと叩き込んでいたのですけど、三年生になった時に経絡治療へ導いてもらってその一回目の治療があまりに衝撃的であり、それから夏休みの研修期間があまり取れなかったので鍼灸専門の先生のところへ行って早く済ませてしまいたいというバカなきっかけもありました。それから経絡治療へ傾くのに私は当時の「臨床各論」という科目が非常に嫌いで、「座骨神経痛ならこことここへ鍼をしてお灸はここへして」「橈骨神経痛ならここへ」「頭痛ならこうして」と、ほんまかいなぁという感じです。太っている人もいれば痩せている人もいて、女性もいればガッチリしたラガーマンのような男性もいてそれが適応できるのか。お灸も書いてありましたけど私は盲学校でしたから直接は出来ませんでしたが、「こんなことを本当にやっていたら受けている方が疲れて仕方ないだろう」と思っていました。それがとても嫌いだったので、経絡治療であれば肺虚証だ脾虚証だと証を立てれば治療が出来ると言うことで、「病名を覚えなくてもいいんだ」というバカな発想もしてはいたのですけど。でも、これは大間違いでした。経絡治療になればなるほど西洋医学的な病名もしっかり知らなければなりませんし、解剖的なこともしっかり押さえておかなければならないので、やはり基本がしっかりしていなければならないということです。それが理解できた上で、証が導いていければよりいいです。


 それで経絡治療を実践し始めた当時は、脉診がほとんどでした。昔のことはゴチャゴチャ言いたくないですけど、当時の腹診は分かったような分からないようなものでした。まだ学生のことですし研修会も二回か三回しか出ていないので、「脉で決めるんだ」と言われても分からないのです。そこで研修会で「ツボを取る時にはその周囲を軽擦しなさい」と教えられていたので、まず経絡を軽擦して脉が変化するかどうかを確かめようと思ったわけです。ですから、私が臨床に取り組み始めた時には最初から軽擦というものがありました。


 もしも「今までそのような考え方はなかった」という方は、是非とも経絡を擬似的に動かして間違いのない証であることを確認する手段として毎回必ずやるのだと覚えて頂きたいと思います。


 昨夜は『チャングムの誓い』の最終回だったのですけど、「何故病人を治してはいけないのですか?」と何度もドラマの中で出てきました。経絡治療とは、絶対に治せる治療法なのです。言い方が悪いですけど、現在の鍼灸業界で行われていることは金属の針金を突き立てて治療家の方が満足をしている、そちらばかりを追いかけているので「患者を壊してはいけないのですか?」くらいの状態に思えます。軽擦をするということは、これは患者さんを治す方向をしっかり確認する方法であり、それから効果を増大させる方法だと思います。


 それで第一番目の項目ですけど、流注上をしっかり引くということです。この時に資料にも書いてありますけど手首から引く人がいますが、これは絶対に間違いです。肘から大きく大きく引いてください。この間の本部臨床家養成講座の中で受講生の方達にやってもらったのですけど、やっぱり手首だけで引かれているのです。「これはなんでかなぁ?」と考えていたのですけど、その時は頭がカーッとなっていたことと今回のオープン例会のことを考えていたのであまり分析できていなかったのですけど、きっとディスポーザブルを使う影響が大きいのでしょうね。あまり患者さんのことを触れずに硬結を見つけたなら素早くディスポーザブルを持っていくという衛生面のことばかりをいわれるからと、冷静になってから考えるとこのようにも思うのですけど。でも、医術というのは『手当て』というくらいですから、特に鍼灸術は手で触れなければダメです。そういうことですから、まずは減るものではありませんから大きく大きくから軽擦をしてください大きく流注上を、肘から軽擦してください。


 それからこれも本部の人に多く見られることなのですけど、往復で軽擦をしているケースがあります。これは絶対に間違いです。補おうとする場合には、迎随に従った軽擦で、帰り道は空中でなければなりません。
 一番軽擦でやっていけないことは、「ここがツボかな?」と思って「あっ、行き過ぎた」とカックンと指を戻す『尺取り虫』、これが一番やってはいけないことです。実技の中でそれぞれ修練していくことなのですけど、まずこれを基本として押さえてください。それでは、次へ進みます。


B.ソフトタッチで徐々に範囲を狭く
 軽擦したい箇所へドンと手を落としたり、弾みを付けて手を持ち上げたりでは経絡に嫌われてしまうだろう。柔らかく華麗な手つき、つまりソフトランディング・ソフトテイクオフである。最初は大きくから徐々に取穴したい経穴の周囲に範囲を狭めるようなやり方をすること、これも大切なポイントである。


 はい、これも書かれてあるとおりです。今回のオープン例会に参加されている方は軽擦に慣れておられるでしょうからそれほど問題ないと思われるのですけど、手をドンと置いてこられる方が多いですね。


 福島弘道先生が存命だった時には「鍼灸専門になりなさい」「はり専になりなさい」と言われ、今は按摩課程は増設できないものの鍼灸専門学校は増設できるようになって晴眼の方は圧倒的に鍼灸だけの免許を持っているはずなのですけど、何故かその割には従事しているのはマッサージばかりなのですけどねぇ(苦笑)。マッサージが悪いとは言いません。これは私の考えですけど、未病を治療する時にはマッサージは非常にいいものだと思っています。安心しますし、その場から気持ちがいいですよね。でも、一旦病気という段階になってしまえば鍼とは治療力が桁一つは違ってしまいます。そういうことで手の重さなのですけど、マッサージをされても構いませんけど必ず「鍼とは違う」という頭を持って頂くことです。それでソフトランディング、つまりゆっくり降りていくからソフトテイクオフ、ゆっくり上げていくということです。


 飛行機でもドカーンと降りてきたなら、やっぱり衝撃がありますよね。飛行機に乗った方や乗ったことのない方など色々でしょうが、本当はプロペラ機の方が乗りやすいらしいですね。風を自分で起こしますからゆっくり離陸できますし、それから何といってもジェット機では滑走路を狙って降りてくるもののジェット噴射をしなければなりませんからある程度の角度が必要でタイヤを落としたならその勢いで機体前面も落としてしまうような感じらしいです。そのような理由ですから、乗っている側としては本当はプロペラ機の方が乗りやすいらしいです。これと同じことで、あまり衝撃のあるタッチの仕方は行わないでください。次へ進みます。


C.取穴時には急停止をしない
 残念ながら大半の人がおろそかにしていることは、「ここが経穴だろう」と軽擦している指を急停止させていることである。これではブレーキが利きすぎて、経穴を押さえ込んだり指がバックしてしまい正確な取穴ができない。徐々に狭めた軽擦から、慎重にゆっくり指を止めることである。面倒でも必ず実行されたい。


 超ベテランの先生が数回の軽擦からピタリと経穴上で指を止めている実技を目撃したことはあるだろうが、真似はしないことである。長年の修練により獲得されたその技術は、芸術の領域だからである。さらに、その先生方も「生きて働いているツボ」がモデル点よりずれていたりすれば、必ず慎重に取穴することを忘れていないはずである。


 軽擦では先程の流注上をしっかり引くということと、この最初は大きくから面倒でもゆっくり狭めていって取穴をするということです。これも実技の中で、「面倒ですけどこのようにやりましょう」ということを確認したいと思います。


 助手がうちには何人もいたのですけど、残念ながらなかなか上達しないという人はここがポイントなのです。軽擦してから指を止める時にしつこく言いますからある程度狭めて指を止めてもらうのですけど最後の場面で指を急停止させてしまうのです。そうなると書いてあったように、経穴を押さえ込んだりブレーキが利きすぎてバックしてツボからずれたり、あるいはひどい場合には逆軽擦を起こしてしまってその時点で脉が開いたり・堅くなったり・沈んだりします。こうなると鍼をしても、もう元通りにはなかなかなりません。ということで、鍼を施す一連の動作なのですけどこの時点でダメならいくら手法がよくてもダメなので、しっかり押さえて欲しいと思います。


D.軽擦は原穴付近を
 流注上のどこを軽擦するかであるが、これは原穴付近で充分であるし効果も大きく効率的である。原穴はその経絡の元気が出てくる箇所であり、経絡を活性化させるにはここをおいて他にはない。取穴したい経穴付近を軽擦したいところだが、まず軽擦の目的が経絡を擬似的に動かし証決定が正しいかを確認することであり、何より活性化させることであるからまずは原穴付近を軽擦することである。その後に目的とする経穴付近も軽擦し、実際の取穴とすれば更に効果は増大するだろう。


 ここは私の独断的意見が入っています。証決定をするのに「よく分からんからとにかく軽擦して、一番よかったものにしよう」では絶対にダメです。そんな甘いものでもありませんし、その前にそのような姿勢の方では鍼灸の技術も伸びていないでしょう。


 まずどこを軽擦するかですが、比較も含めて経絡を活性化させるには原穴付近を、言い方を変えれば十分だと思います。相撲を取るには同じ土俵でなければなりませんから、だから原穴付近を軽擦していけばという意見です。


E.営気に対する軽擦
 営気の手法を用いるべき場面では、やはり営気の重さでの軽擦を行うことが肝要である。もちろん効果を増大させるためである。


 しかし、証決定を確認する段階では経絡の組み合わせによる要素が大きいため、診断にも支障ないことから衛気の重さでの軽擦に統一しておけばいいだろう。


(付録)

 特に証決定を確認する際は、五回以上軽擦をして脉診・腹診の改善と肩上部の緩みの「三点セット」で判断すること。状態を戻す際には逆方向の軽擦をこれも五回以上とし、次の経絡へ移る場合には一定以上の時間を空けることが肝要である。


 営気の手法が必要だと判断される証、つまり七十五難型では腎経あるいは三焦経の軽擦は営気の重さで行って頂きたいということです。あるいは脾虚肝実証で、胆経に営気の手法を行う場合にも営気の重さでの軽擦が大切と思われます。


 ただし、証を決めかねている場合には衛気の軽擦だけで充分だと思われます。それから回数は五回以上で、次へ移る場合には必ず逆軽擦で元通りにしてください。


【補足】衛気と営気に対する軽擦については、オープン例会の実技を通じて「重さ」ではなく「スピード」による変化の方が重要であることが判明し確立をすることが出来ました。つまり、血は一秒間に換算すると六寸しか進むことが出来ないので経脈内に流れるものは六寸しか進めず、営気に対する軽擦とは六寸を越えないゆっくりした軽擦をすればいいことになります。ゆっくりであれば指の重さも自然と伝わるため営気の重さを気にする必要がありません。衛気に対する軽擦は七寸以上の素早い軽擦をすることになります。素早さを優先するあまり逆に陽気を飛ばしてしまわないかとの懸念もあるでしょうが、よほど粗雑でなければ大丈夫であると検証がされています。


 「衛気を操作する時には営気を傷つけないように」「営気を操作する時には衛気を傷つけないように」との古典の記載を再現するなら、軽擦するスピードが肝要です。特に「軽擦をしても変化がない」とか「思わしい変化をせず逆に悪影響である」と感じられていた方は、軽擦がゆっくり過ぎるはずです。素早く軽擦するように心がけてください。


2.取穴法について

 いわゆる「モデル点」として経穴を暗記しておくことも鍼灸を施す大前提なので、これもここでは省略する。しかし、「モデル点」を教科書通りに暗記してもなかなか実際の取穴に結びつかないのも現実である。また型くずれから取穴できていたものが、いつの間にか取穴できなくなったりもする。毎回の研修会において、お互いに確認し合うことが肝要である。


 取穴をより確実にするためのポイントを整理してみる。


A.経絡は大きく引き延ばして取穴する
 例えば太淵は手を背屈し尺屈してから取穴すると、通常よりかなり外側の印象にはなるが確実に取穴できる。尺沢や曲泉など関節の横紋内に位置するものは、モデル点を取穴してから関節を伸ばして取穴し治す。横着をせず、実は当たり前のことを確実に行うことである。


 「モデル点」と「生きて働いているツボ」を改めて説明する必要もないとは思いますけど、モデル点とはあくまでも「このあたりにありますよ」「これを中心に探ってください」という場所のことです。生きて働いているツボとは「今実際に使えるツボ」ということで、必ずしもモデル点の場所にあるわけではありません。犬は犬小屋につながれているのですけど、犬小屋の中に入っていることも結構あるのですが鎖の範囲で動くこともあります。あるいは井上恵理先生はバスとバス停の関係で説明されていましたが、バス停に上手に停車してくれるケースは多いのだがピタリと停車するばかりではありません。新幹線でさえずれることがあるくらいですからね。ですから「今乗り降りできる口をしっかり捕まえる」ことが、生きて働いているツボということになります。


 これを捕まえるためのいくつかのポイントがあり、まずは経絡を大きく引き延ばして使うということです。頭の中では「このあたりだから」と思っているのですけど、実は当たり前のことなのですけど正確な位置を取るために例えば太淵であれば背屈・尺屈させハッキリくっきり目で見ても分かるくらい出てくるようにして取穴することが大切です。


B.セットにして覚える
 内関と外関などいわゆる「打ち抜き穴」はよく知られているが、間違えやすい中封と商丘などは経絡をまたがっていてもセットで覚えてしまうのがいい。井穴についても、セットで覚えてしまうのがいいだろう。

C.目安となる骨や筋肉の割れ目を覚える


 これも当たり前のことであるが、「どこからなん寸」という指示が一番あいまいとなるので目安となるものをしっかり覚えておくことである。取穴は経穴を熟知した人のみが出来る芸術に近い技術ではあるが、基準点がしっかり把握できていれば・コツさえつかめば必ず誰でも出来ることである。だから芸術ではなく技術と表現した。特に足三里の脛骨粗面については、実技の時に確認していく。




 それぞれのツボに対して解説しているといくら時間があっても足りないので、今日の実技の中で出来る範囲でやっていきたいと思います。特に足三里については脛骨粗面を大抵は下から押し上げてきて指が止まったところと腓骨小頭を結んで脛骨側三分の一としているのですが、脛骨粗面を上から撫で下ろしていくと一段目を降りた後も裾野が広がっていることが分かります。この裾野の終端が脛骨粗面の下端となりますので、ここと腓骨小頭を結んだ線上で取穴します。これはテキストを製作した我々でも三年か四年すると忘れてしまって、今年もまた議論になったのです。それで脉診をしたり少し押さえて響きを確認したり、実際に鍼もしてみて裾野の終端が脛骨粗面の下端だと確認をしたのです。


 それで思い違いから取れていたツボが取れなくなってしまう、これが取穴練習を繰り返しやらなければならない一番の理由なのです。臨床室に立っていても、例えば私もこの夏を過ぎた頃に実際にあったことなのですが委陽が取れないのです。「あれっおかしいなぁ、うまく行っていたはずなのに」というのが取れていなくなったりするので、研修会の時に修正しなければなりません。


 それで時間が超過してきましたので、少しはしょって自然体へと進めます。


D.繰り返し修練すること
 基本がしっかりしていることこそが、何よりの技術である。今回取り上げている軽擦・取穴・自然体に加えて基本刺鍼は、基本中の基本であるから、「これは習得できた」などと思い上がることなく、繰り返し修練することが絶対条件である。自己流に陥ると必ず型くずれを起こすものであり、最も恐ろしいことはそれ自体に気が付かなくなってしまうことである。研修会参加が技術向上には絶対条件である。鍼灸術とは偉大なる祖先が残してくれた宝物であり、我々は次の世代へ伝承していく義務を背負っているのである。


3.自然体
 軽擦をするにも取穴をするにも、まして刺鍼をする時に姿勢が崩れていたのでは余計な力ばかりが入り治療はうまくいかない。さらに力が入った状態で施術を続ければ、治療家自身が疲れてしまい悪循環のみである。臍下丹田に自然に気が入ってくる自然体を、治療室のみでなく普段の生活からも持続するようにしたい。


A.自然体の基本
 足は肩幅に開き爪先を平行にするのだが、股関節の形状から自覚的には平衡にしているつもりでも爪先が開いてしまうので自覚的にはかなり内股とする。これで肩上部の硬さをチェックしてもらったり、深呼吸をして臍下丹田に気が入っていくことが確認できたなら、基本的な自然体となっている。


 これが確認できたなら、臍下丹田に気が入ってくる感覚を充分に養うことである。気を鍛錬することに役立つからである。また臨床現場での自然体を確認するにも、重要となってくる。


 ところが他人の姿勢を目で見て真似しようとして、逆に不自然体になっている人を見かける。原因の大半は膝が軽く曲がっていることを真似しようとして、意識的に自分で膝を曲げてしまうことであり、爪先を平行にさえすれば膝は二次的に曲がってくるので特に意識をする必要はない。また頭を下げないように注意されてから上を向いているケースもあるが、上を向くことと顎を引くこととは根本的に違うので、顎を引いた姿勢でなければならない。


B.臨床現場での自然体
 患者というものは「病気という気」を沢山持っているのであるから、これを中和しようとするには術者が「楽な気」を充分に持っている必要がある。先程も触れたが余計な力が入っていると治療がうまく行かず、思い描いた反応がなければますます焦って余計な力だけが増してくる。焦りを止めるには、深呼吸をしてから自然体が維持できているかを自問自答してみることである。


 さらに患者の体位や施術場所によっては、基本の自然体のみでは逆に不自然となってしまうので、臍下丹田に気が入ってくるように臨機応変にその場の自然体を工夫すべきである。ポイントとしては身体をひねらないことで、片手だけを無理に伸ばしたり腕をひねりすぎるのも身体をひねっていることと同じなので注意すること。足の開き方や爪先の角度などは大胆に工夫してみることであり、実際に実技で確認していきたい。


 基本の自然体とは既にご存じだと思います。足を肩幅に開いて爪先は平行なのですけど、股関節の形状から自分では平衡だと思っていても全くそれでは平衡ではないので目で見ると分かりますけど自覚的には「内股」の状態にすると平衡となります。この時に深呼吸をしたり肩上部の硬さを調べてもらうと、全然違うものになっています。自覚的にも臍下丹田に自然に力が入り、「気がこもる」状態となっています。これを充分に修練してください。


 この臍下丹田に「気がこもる」状態になるように、臨床現場では工夫してもらいたいということです。例えば先程は太淵が出てきましたけど、術者が右利きだとして患者さんの右の太淵を取るとすれば基本の自然体だけでは対処できないのです。昔に教えて頂いた先生が「基本で立たなければいけない」ということで、患者さんの左側に立って右手はベッド上に伸ばさせ患者さんの身体に身を乗り出すようにして行われていましたけど、「それはやっぱり手や肘が張ってしまうから不自然体やろ」と思っていました。そのような時には患者さんの右側に立ち、肘までベッドに付けていてもらえば後は前腕を術者に預けてもらっていても体重は掛かりませんから、まずこのような状態を作ってから足を前後に開くとか患者さんの手と術者の角度が平衡になるなどしていれば臨床的な自然体になっているということなのです。大切なことは、臍下丹田に気がこもるということです。


 これもその場その場、それから術者の体格や患者さんの体格によっていちいち変わってきますので講義では伝え切れませんから、午後の実技の中で鍼をする時に一緒に研修していきたいと思います。


 それでは時間も超過していますし最初に余計なことを喋っていたので一部を省略しましたが、喋りたいことはほとんど伝えられたと思われますので、後は実技でよろしくお願いいたします。



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