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突発性難聴の1症例
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2018年8月19日

突発性難聴の1症例

発表:小林久志


◎診察について
   ◆初診時について
    初診:2016年10月26日 患者:83歳、女性、無職。
    ・姑が突発性難聴になってとお嫁さんの方から問い合わせの電話があった。当院へは初めての来院治療となる。

  ◆主訴 日前に突然左の耳が聞こえなくなる。

  ◆その他の愁訴
   @現病歴  2日前野その日は朝から体調が何となく変な感じだったという。夕方電話のベルが鳴り、受話器を取った。いつも左側の耳で聞いているがその時は何も聞こえずに電話機が故障したのかと?想ったら自分の左耳が聞こえないことに気づいた。耳鼻科にいったら「突発性難聴」と診断。検査では左耳の聴力はゼロ。全く聞こえない状態だった。ステロイドの薬を投与することになり、とにかく5日後の金曜日まで様子を診ることになった。 左の耳は半年前から耳鳴りがしていた。それがとても気になり夜も眠れないこともあり憂鬱な日が続いていた。 肩こりなど自覚症状はないというが、触れると肩や首の緊張を感じる。

   A既往歴 ・現在、耳の薬以外に高血圧症、糖尿病、骨粗鬆症(月1)の薬を飲んでいる。 ・眼圧が高く点眼薬をさしている。 ・2年前に右の股関節を骨折手術し、人工関節を入れている。今は左側の股関節が痛く膝まで痛くなることがある。

   ◆四診法
    @望診 ・身長約150cmほどで小太りな感じ。
    A聞診 ・優しく歌うような話し方。受け答えもしっかりされ越えも明瞭である。
    B腹診 ・腹部全体は柔らかではあるが少し深く押し込むと固さがある。特に肝の診所の固さが著明。 C脈診 ・全体的にや浮、数、\、虚。 脉位では左関上の肝の脈が9菽で浮いており、やや拡がった脉(緩)と診た。

◎考察と診断
   ◆西洋医学や一般的医療からの情報
     一般的にも突発性難聴は治療までのスピードが勝負と言われている。発病から2週間を過ぎると完治する確立は極端に下がるとのことである。 まずは患者の完全治癒を考え、当院では西洋医学の治療との併用を薦めている。そういうことでは発病すぐに治療を開始できたことは幸運であったと思う。

   ◆漢方はり治療としての考察  糖尿や骨粗鬆症、高血圧など様々な病気をかかえており、2年前には右の大腿骨を骨折。手術をして動けるようにはなったが以前に比べ運動量はかなり減ったとのこと。 また発病の半年前から耳鳴が起こり、夜もあまり眠れずにいたことや、突発性難聴を発症してからも常に耳がこのまま治らずにずっと聞こえなくなるのではという精神的不安が付きまとっていた。 そういったことが気血の流れを悪くし、特に肝の疏泄作用の衰え、肝血の滞りを生じ病を発症したものと思われる。 最初は悪血があるだろうと検討は着けていたが、思ったよりは肝の脈が浮いていて肝実特有の結ぼれるが如く脉ではなかった。脉が開いているように感じるのも気になり、これは精神的疲労(ストレス)、すなわち想いを過ごしてしまい肝の護りを破ってしまったのではと考えた。

   ◆証決定 精神的ストレスや運動不足、様々な薬の服用などから肝機能の衰え、気血の滞りを生じさせたための肝病と診る。

◎治療経過
   ◆初診時の治療
    @本治法 脉が数でもあり、剛柔選穴として大腸経の右三間を営気の手法を加える。 A標治法 まず細かな邪気を取り除くため側頚部をてい鍼にて散鍼。腹臥位で左肝兪に営気の手法。 邪専用てい鍼にて後頚部、頭部、肩上部を処理。背腰部に適宜散鍼。 側臥位で左臨泣に営気(逆てい鍼)にて処理。 患部の左耳の後の乳様突起付近の反応点(気滞)にアルミの材質のてい鍼をしばらく当てる。 最後に背腰部にローラー鍼、えん鍼を行い、腹部に適宜散鍼を加え初回の治療を終了した 治療後、耳の変化は特になし。しかしお腹の硬さが弛み、頚肩部の張りも取れ全体にゆったりとした感じになる。

   ◆患者への説明
     完治するかどうかについては正直治療をやってみないとわからないことを話す。 突発性難聴は発病から2週間以内の治療が大事になること。 治癒に導くためにも今のこの時期をのがさぬようできるだけ毎日治療に専念してほしいことを伝える。  

   ◆継続治療の状況
     2回目(10月27日) 夕べはゆっくりと眠れた。今朝起きて耳を指で触ると何かバリバリと音がしたという。 治療は昨日とほぼ同様に行う。

     3回目(10月28日)治療開始から2日目。 良い方の耳を塞いで悪い方の耳をテレビに近づけると高い感じの音がかすかに聞こえるような気がした。 またどういう状態なのかは解らないが、自分のしゃべっている声が聞こえるという。耳を触るとやはりバリバリと音がする。 ステロイドの薬が今日で終わるので、この後病因の診察に行きますとのことであった。 脉はやや浮、\、弦。肝の開いたような脉は治まる。 左関上は結ぼれるが如く脉を現し、証を肺虚肝実証に変更。右復溜を営気で行う。 左臨泣を営気(逆てい鍼)にて処理。左耳後の反応点(気滞)にアルミのてい鍼を当てる
     
     6回目(11月1日)治療開始から6日目。 病因で検査をしたところ、高音が聞こえるようになってきていますねと言われる。 脉はやや浮、弦。肝の脈は結ぼれるが如く脉ではなく、浮いて弾くような脉に感じた。 腹診でも心窩部の緊張が気になる。 証を肝病と診て右の大敦を営気の手法で行う。 標治法はこれまでとほぼ同様であるが、患部の左耳の反応点(気滞)にアルミのてい鍼を当てた後に円皮鍼を貼り付ける。 ドーゼを考慮し円皮鍼は寝る前に外してもらうことにした。

     7回目(11月2日) テレビなど耳を近づけると内容は解らないものの人がしゃべっている感じが解るようになってきた。 ご本人曰く、希望が見えて精神的にも楽になりましたと話される。

     8回目(11月4日)治療開始9日目。 人がしゃべっている声も聞き取れるようになってきた。正常なときを10とすると現在7くらいに回復しているとのこと。 ただ音は少しぼやけて鮮明でなく、耳鳴が気になるという。

     11回目(11月9日)治療開始14日目。 耳は8割から9割快復。しゃべっている内容などちゃんと聞こえる。ただ音がこもった感じで聞こえる。

     12回目(11月12日)治療開始から17日目。 聴力は正常な時と同じ状態に回復。 耳鼻科の検査でも「ちゃんと良くなっていますよ」とのことで正常にもどっていることを確認。 ただ耳鳴が時々起こる。夜中は気になることもあるが、昼間は忘れているとのこと。 治療は今回にて終了とし、後は健康管理の継続治療とした。

◎結語
   ◆結果
     発病から2日目で治療を開始したのもあり非常に良好な経過を辿りました。全く聞こえない状態ではありましたが、計12回の治療(はり治療開始から17日目)でほぼ完治となりました。 また患者さんもこちらの言うことを守ってくださり、ほぼ毎日継続して治療に来て頂けたことが治癒に導けた大きな要因であると思います。 しかし初診時は一抹の不安もありました。患者はご高齢でもあり、普通でも年齢による気血の衰えは否めません。老化から来るものであれば完治は難しいということになるわけですから。幸いにも聴力は正常なときと変わらないところまで回復してくれました。ただ耳鳴だけは続いているようですが、これは発病する前から起こっていたものでもありこれこそ老化から来ているものかと思ったりもしますが…。

   ◆感想
     今回のこの症例では西洋医学の治療との併用ですからはり治療の効果がどれほどのものかということについては疑問に思われる方もあるかと思います。しかしそれは治療家が思うことであり患者にとってはどうでもいいことです。我々治療家は患者の病がどうすれば早く治るかと常に考え行動していかねばならないと思います。そういうことでも私は西洋医学との併用治療を薦めています。特に突発性難聴は先にも書いたように、発病してから治療に取りかかるスピードが完治に至るかどうかの大きなポイントになります。その時にしかない大切な時間を無駄にして患者さんが後になって悔いを残さないためにもそうしています。 しかしながら西洋医学でどうにもならず聞こえないままはり治療に来られる患者もあるわけですが、私を含め多くの鍼灸師がこの疾患を治癒に導いていることも付け加えておきます。  

   ◆付記
     突発性難聴の患者を治療するときはいつも思うことですが、聞こえるか、聞こえないかという結果がはっきりする疾患であることからその影響は大きいです。やはり毎回その責任感から治療に取りかかるときにはドキドキするものです。 でもその分良くなったときは患者自身は勿論のこと治療家もその喜びは一入であり、この治療をしていて良かったと想える瞬間です。  鍼灸治療、なかんずくこの漢方はり治療に巡り会えたことに感謝しこれからも病苦除去の実力を身に付けていけるように日々精進して行きたいと思います。

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