タイトル装飾画像
滋賀漢方鍼医会ホームページ鍼画像
タイトル装飾画像

熱中症の一治験
ホームへ戻る 研修資料一覧ページへ戻る

2018年9月16日

熱中症の一治験

発表:岸田美由紀


◎結果  暑邪と冷飲食によって発症した熱中症が1回の漢方はり治療で治癒を得ることができた。

◎診察について
患者:50歳 男性 M.S. 工場勤務
平成19年3月から週1回のペースで腰痛治療で来院。

・主訴
2018年8月10日の午前3時頃から下痢があり、仕事には行ったが、動悸や胸のつかえ、吐き気があった。

・現病歴
来院当初は腰痛のみであったが、途中仕事が変わり、その頃から不眠やふらつき、精神的な不安定が現れて心療内科に通っている。
前来院日8月4日(土)の治療でも仕事中にフラッとなることがあると訴えていた。

・四診法
体表観察:上半身熱感(特に胸や手)。下半身は冷えていない。魚際の冷え(胃中の冷え)あり。
腹診:丹田に力あり。心窩部に手をかざすと冷気。
脈診:浮数滑 脾脉沈
尺膚:滑
問診:職場が暑く、スポーツドリンクのようなものを2.5リットルぐらい、熱中症対策用のアメもとっていた。

◎考察と診断
熱中症の症状には、めまいや立ちくらみ、筋肉のけいれん、頭痛、腹痛、吐き気や嘔吐、身体に力が入らない、発汗異常(汗が噴き出る・全く汗をかかない)、体温が高い、意識障害などがあり、患者にも吐き気や下痢、体温が高いなどの熱中症が疑われる症状がある。

また、鍼灸重宝記 霍乱の項には「霍乱は、外暑熱に感じ、内飲食生冷に傷られ、たちまち心腹痛み、吐瀉、発熱、悪寒、頭痛、眩量、煩躁(胸中の熱と不安を煩、手足をばたつかせることを躁という)し、手足冷え、脈沈にして死せんとす、転筋腹に入るものは死す。また吐せず、悶乱するを乾霍乱という、治しがたし。」とあり、患者の訴えに当てはまる症状が多い。

・漢方はり治療としての考察
職場が暑いことで暑邪に傷られているが、症状の直接的な原因は冷たい飲料を多く口にしたことだと考える。暑さで脾胃が弱まっているところに冷たい飲料を多く摂り、それが脾胃の陽気を損傷し痰飲を発生させ、上下焦の気の通行を阻害したと考える。 痰飲の停滞によって胸のつかえがおき、気の通行阻害によって上焦に熱が停滞し上半身の熱感と動悸が現れ、脾胃の陽気の損傷によって下痢と吐き気が起きたと考える。

◎治療経過
・初回の治療
治療は脾胃に問題ありとみて治療。
丹田の力があること、脈に力あることによって実と判定し、瀉法を用いることを決定した。数脈から胃経、滑脈および尺膚から水穴の内庭を使うことを決定。手法は浮脈で実であることから、衛気の瀉法を用いることに決定した。

初回 8月10日
治療 脾病 右内庭を衛気の瀉法(鍼先を経に逆らって向け、45度以下の角度に倒して気を抜く手法)
標治法:頭部に邪専用てい鍼施術、熱感のある頸肩部は瀉の散鍼、腰下肢部は補の散鍼

・患者への説明
冷たい飲み物は少しの間、口に含んでから飲むなどの工夫で、一気に大量にとらないように注意した。

・継続治療の状況
2回目 8日後、8月18日
前回訴えていた症状は、治療後、治まった。昨日、山口から帰ってきた。
治療:脾病 左児[に営気の瀉法(鍼先を経に逆らって向け、60度以上の角度に鍼を傾けて気を抜く手法)
標治法:腎兪、大腸兪に知熱灸2壮 頭部に邪専用てい鍼、背腰下肢部に散鍼 骨盤矯正

◎結果
治療直後から心窩部の停滞がとれて気が流れるようになり、上半身の熱感や脈の数も治まった。また2回目の治療で患者からも治療後治まったとの言葉もあり、初回の治療のみで熱中症の症状が治まったと考える。現在は、本来の腰痛の治療を継続中。

・感想
暑さがいつもよりもひどい今年は、普段来院されている患者の中にも、熱中症にかかってくる人が時々見られました。おそらく漢方はり治療をしていなければ、このような患者さんを治療することはできなかったと思います。
昔から熱中症は霍乱と呼ばれ、鍼灸治療の対象となってきました。この霍乱以外にも古典には、内科的疾患や耳鼻咽喉科、産婦人科、精神疾患などさまざま科の疾患が記されています。漢方はり治療により少しでも多くの疾患を治療できるようにしていきたいと思います。

ホームへ戻る 研修資料一覧ページへ戻る


Copyright(c)2010 shigakanpouhariikai All rights reserved.